瑞乃「今回は引きニートの内面描写だけ……つまんないかも」
雅加「そ、そんな……」
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瑞乃さんが帰ったあと、ボクはぼんやり、彼女の腰かけていたクッションに頭を乗せて横になっていた。
今、自分がどういう状態になっているのか、わからない。
なんだか心が重くて軽くて、地の底まで沈んでいきそうな、それでいて天にも昇るような、不可思議な感覚。
確かなのは、ボクの煮えたぎる想いが、この部屋の四角い狭さに収まりきらないこと。
これがミュージカルなら、ボクはすぐさま街へ出て行き、歌って踊るのだろう。
でもボクは真正の引きこもり少年。
歌もセリフも全部、この部屋の壁が吸い込むだけだ。
それなら、夢のなかで歌い踊るほうがいくらか合理的。
ボクはそっと瞳を閉じ、頭のなかの花園に意識を埋もれさせていった。
目が覚めたのは、母に「ご飯よ」と声をかけられたとき。
ドアを開けて、ボクが部屋を出ると、お盆を持った母は少し驚いた。
「今日は下で食べるの!?」
「うん」
「あら珍しい」
もちろん、瑞乃さんとのことが原因で、両親にも心を開ける気持ちになった……
とか、そんな甘いことでは、まったくない。
ろくに顔も合わせていない二人と食事だなんて、そんなの億劫きわまりないことだ。
ただ、今夜食事を両親と摂ることには、〔ある一つの思惑〕があった。
冷たいタイルのキッチンで、両親と囲む広いテーブル。
「今日はここで食べるのか」
父がお肉をくちゃくちゃとむさぼりながら、険しい顔で訊いてくる。
「うん」
「そうか」
そしてしばらく無言の食事。
明らかに、父も母もボクの変化に戸惑っている。
「朝苗さんの、おかげなの?」
母がご飯茶碗を持ったまま、作り笑いで訊いてくる。
「そうだね」
ボクがはっきりうなずくと、父と母は興味深そうに顔を見合わせた。
「あらまあ、さっそく効果があったのね」
「ボランティアというのもバカにならないんだなあ」
効果って、なに? と問いたくなったけれど……
ともあれ、ボクの思惑というのはまさにこれ。
ここで瑞乃さんの評価を上げておけば、両親は彼女を信頼して、歓迎するようになるだろうから。
「いつまで学校を休む気だ?」
ハムエッグのソースを口につけたままの父が、いぶかしげに訊いてくる。
「さあ」
その二文字ではぐらかしても、父は怒るわけでも悩むわけでもなく、
「そうか」
と呟いてご飯を口へ運ぶだけ。
今どき『しゃべる家電』相手でも、ここまで味気のない会話にはならないだろう。
どこで食べるか。
瑞乃さんかボクにどんな効果をもたらしたか。
いつまで学校を休むか。
そんな物理的な事象にばかり目を向けていて、ボクの内面には一切興味がない。
その証拠に、ボクはこの両親から、
〈学校でなにがあったのか〉
と訊かれたことが一度もなかった。
部屋に戻って、もう瑞乃さんの匂いも消えたクッションに、また頭を預ける。
両親との食事は冷めた体験だったけれど、不思議とこの心は沈んでいない。
なぜか心が春色のオーラに包まれていて、どんな煩悩も苛立ちも、心が即座にキャンセルしてしまう感じ。
ボクは一人、彼女がこの心身に残していった、温もりと刺激を胸に抱いて、温かな夜の時間を浪費していった。
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瑞乃「つまんない回でごめんなさいね~。次はスーパーナースな私の再登場ですから! ランキングバナーをクリックして待ってて下さいっ」

